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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 6-15

「あのな、成瀬」  うんざりとしていた調子から切り替えた、らしくない静かな声だった。顔を上げる。目が合ったのは、真剣に慮っているらしい顔だった。  このあいだも見たばかりの顔。 「どう言えばいいのか、俺にももうよくわからんが。後悔するぞ」 「後悔?」 「俺たちがここにいられるのは、あと半年だ。俺は、少しでもわだかまりなくおまえに……、おまえたちに卒業していってほしいと思ったから、このあいだも、話せと言ったし、それが条件だと言ったつもりだった」  その顔を正面から見つめたまま、うん、と成瀬は頷いた。 「だから、話しただろ」 「おまえが一方的にな。……おい、繰り返させるな。こんなこと」 「だって、事実だから。でも、そうだな。大丈夫だよ、茅野」 「大丈夫って、なにが大丈夫なんだ」  受け答えに混じり始めた苛立ちには気がつかないふりで、大丈夫だからだよ、と請け負う。  心配をされるようなことをしているつもりもないし、後悔をするつもりもない。この選択を取ったときに、そう決めていた。  ――そういえば、だいぶ前に篠原にも言われたな。  爆発する、だとか、後悔する、だとか。けれど、後悔なんて、余裕のある人間が振り返ったときにできることだ。 「俺は、俺である限り、絶対に後悔しない」  アルファである限り、絶対に。だから、アルファの顔でほほえんでみせる。  どれだけ滑稽なことだと思われていようとも、それが自分であるためのすべてだった。

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