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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 7-4

 篠原の言うとおりで、成瀬はそういったことがうまい。そういったことを選択せずに、相手の逆鱗に触れることもうまいわけだが。  案の定と言うべきか、成瀬は完全に聞き流す態勢に入っている。 「うん。まぁ、そうかもな」 「そうなんだよ。どうすんだ、おまえ。無意味に恨み買って闇討ちでもされたら」 「闇討ち」  笑って繰り返した成瀬の視線は手に取った書類のほうにばかり向いている。そこまで急ぎのものではない。つまるところ、聞く気はないということで。 「まぁ、そうだな。無抵抗なのにやられましたっていうていのいい証拠が取れるな」 「……おまえのそういうところ、マジでどうかと思うわ」  第三者として聞き耳を立てているだけでも篠原が気の毒になるやりとりだったのに、幼馴染みは視線を合わせようともしないまま、「そう?」と言っただけった。  ちら、と向原のほうも窺ってみたのだが、口を挟む気配はなかった。  ――これも無駄だって思ってそうだなぁ、向原さん。  無駄じゃない、とはさすがに言いづらいものがあるけれど。

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