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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 7-8

「なんでもない」  いや、なんでもないことはないだろ。と思ったが、気まずげな笑みを返すことしかできなかった。  ――でも、せめて、大丈夫って言ってくれたほうがまだマシだったな。  まだ騙されようという気になれるというか。そんなふうなことを思っていたのが伝わったのか、成瀬が立ち上がった。 「ちょっと頭冷やしてくる」 「成瀬」 「廊下」  振り返りもしないまま篠原に答えたのを最後に、ドアが閉まる。思いきり舌打ちをしていた篠原からそっと視線を外して、向原に向ける。  静かにファイルを見ている横顔は、なんの変化もないのだが、あの一言を最後になにも言わないのが、逆に怖い。 「あの……」 「っつか、向原も。あいつ最近ピリピリしてんだから、挑発して遊ぶなよ」  もっともだ、と思ったのだが、「だからだろ」と向原はあっさりと言ってのけた。視線は変わらずファイルに向いたままだ。 「いいかげん見飽きたんだよな、あの顔」 「見飽きたって。そら、もう五年一緒なんだからしかたねぇだろ」 「違う」 「は? 違うって、なにが」 「あの似非くさい顔。潰したい」  先ほどと同じあっさりとした調子だったのだが、篠原がぎょっとした顔になったのを、皓太はたしかに見た。

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