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パーフェクト・ワールド・レインⅤ-4
「ふざけた名前だよなぁ、それ」
苦笑としか言いようのない篠原のそれに、成瀬は手元の申請書から視線を上げた。同好会のものだ。『秘密の薔薇結社』。篠原の言う通りふざけた名称だが、同好会の申請基準である十名を優に超えた人数の名前が連なっている。
第二の性を研究し、オメガにとってもアルファにとっても住みよい環境を考えていくことを主目的に――。
同好会会長、水城春弥。その名前に、表情が苦くなる。
「承認してやる気か?」
次に聞こえたのは向原の声で。まぁそう来るだろうなと思っていた通りの問いに、小さく笑う。
「突き返すだけの理由もないし」
「おまえの一存で、にはしないわけだ」
嘲笑するようなそれに、判子を掴みかけていた手が空振る。ゆっくりと掴み直す。
「職権乱用は好きじゃない。いつか駄目になる」
「それをしなくても、駄目になるだろう。この現状は」
向原の眼には、どんな未来が見えているのだろう、とふと思った。自分とは違う。両親が自分に望んでいた、アルファの上位種。成瀬がなり得なかったものだ。
「この学園の秩序を守るって言ったのはおまえじゃなかったか」
それは確かに自分が言った言葉だった。そして、つい先日。何もしなくても良いと言ったのも、また自分だ。
――少数派が多数派にとって代わるかもしれませんよ。
これが、その始まりのつもりだとでも言うのだろうか。
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