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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ Φ-2

「ハルちゃん」  ご機嫌を取るような呼びかけとともに、離れたところで見守っていた取り巻きが近づいてくる。苛立った気分で、水城は紙の束を相手の胸に押しつけた。  立ちすくむ自分に見向きもせず去っていた、あのベータも。自分にこびへつらうだけで、あの上級生を止めようともしなかった、この役立たずも。  リコールに必要な署名の数は、全生徒数の三分の一。一年生は固い。楓寮の寮生だって固い。有効数はすぐに集まると思っていた。  僕の願いに応えないアルファなんて、いないはずだった。  ――いや、そうだ。  アルファが、足りないんだ。この学園はアルファの巣窟だと評されてはいるけれど、実際のところは二割強くらいの割合でしかない。  それでも、ほかの一般的な学校に比べたら格段に多いけれど。水城がいた中学校には、アルファなんてひとりもいなかった。  ここは、恵まれている。恵まれた、金持ちばかりが集まっている。 「ねぇ、今すぐこれぜんぶ埋めてきて」 「今すぐって……」 「できないの? どこの教室でも寮でもいいから回ってきてよ。僕のためなんだよ。できないの?」  受け取らないことに苛立ちを増幅させながら、水城は胸板を押す手を強めた。苛々する。 「僕に、恥をかかせるの」  苛々する。それもこれも全部、あいつのせいだ。大嫌いな、オメガ。あいつさえいなければ、こんなふうに苛立つことなんてなかったのに。  この学園は、もっと早く僕のものになっていたにちがいないのに。

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