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閑話「夜の食堂でごはんを食べる話」④

「怖くないよ、あいつは。無駄に髪の色が派手なだけで。あいつのお母さん、すごく面倒見のいい人でね、みんなでどうぞって大量に送ってくれてるの」  これもそう、と言って指し示された冷凍のうどんのほかにも冷凍庫には様々なものが入っていて。つい、物珍しさからまじまじと眺めてしまった。 「実家いたら、冷凍のとかあんまり食べたことないかな。大丈夫、ふつうにおいしいよ」  たしかに母は料理に手間暇と愛情を込めることに熱心なタイプだったので、インスタントといったたぐいのものを食べたことはほとんどないかもしれない。  頷くと、成瀬がうどん玉をひとつ鍋の中に入れた。そうして冷蔵庫から長ねぎと油揚げ。こういった足の早いものは寮母さんが適時補充してくれているらしい。  まぁ、料理するやつは限られてるけど、と成瀬が言う。 「俺もめったにしないしなぁ。そういう意味ではけっこうレアかも」  そんなことを言いながらも、準備をする彼の手つきは随分と慣れているように行人には見えた。隣に立ってじっと見つめていると、ちらと視線が向いた。にこ、とその瞳がほほえむ。 「ごめんね。出汁も取らないけど」 「いや、そんな、ぜんぜん」  というか、まったく自分は料理なんてできないし、おまけにつくってもらっているのだ。物を申す気はいっさいないし、恐れ多すぎる。ぶんぶんと首を横に振ると、また笑われてしまった。

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