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閑話「夜の食堂でごはんを食べる話」⑤

「あとね、向原も怖くないよ。怖く感じるかもしれないけど」  まさしく怖いと感じている存在だったのだが、はい、と行人は頷いた。このふたりが仲がいいことは知っていたし、自分を安心させてくれようとしているとわかったからだ。 「すごく、いいやつ」  どう答えていいのかわからなくて、行人は話を変えた。 「成瀬さんって、ごはん作れるんですね」  実家にはいつも母がいたから、台所に立ったことはあまりない。幼かったころは手伝うことが好きだった記憶もあるのだが、この数年は勉強ばかりだったのだ。 「ん? んー、そうだな。うちの親……というか、母が不規則な仕事だから。お手伝いさんとかも来てくれてはいたけど、妹が風邪引いたときとかは作ってたかな」 「不規則、ですか」 「あ、知らなかった? そうだよな。みんなが知ってる気がしてたのはさすがに自意識過剰だった」 「あの……?」 「ごめん、知らなくてぜんぜんいいよ。いわゆる芸能人ってやつでね。女優してる」 「……すみません、俺、そういうの疎くて」  そういえば、そんな噂を入学してすぐくらいのころに聞いたことがあったような。恐縮してしまったのだが、さらりと成瀬は笑った。

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