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閑話「夜の食堂でごはんを食べる話」⑥

「だから、本当に、ぜんぜん。でも、そうだな。気にして探したらすぐにわかるかも。向こうも本名の成瀬で活動してるし、俺、顔も似てるらしいから」 「……へぇ」  それはちょっと見てみたいな、と好奇心が湧いてしまった。完全に母親似で女顔と揶揄されている自分と違って、この人が女性的だとは思わないけれど。でも似ているのなら、きっとその女優の母親も美人なのだろう。今まで会ったことのある人の中で、この人が一番きれいでかっこいいと行人は思ってしまっている。  喋りながらも淀みなく動いている指先をじっと見つめていると、なぜかほほえましそうな顔をされてしまった。  揚げの入っている鍋からは甘い出汁の匂いがしていた。 「なんか、ちっちゃい子みたいでかわいいな」  ちっちゃい子。いったいどこが、と我が身を振り返ったところで、はたと気恥ずかしくなる。言われてみると、調理中の母親について回る幼児のような行動を取っていたかもしれない。  いや、でも、先輩が立ってるのに自分だけ座ってるっていうのも、ちょっと。この人はそんなことは気にしないかもしれないが。 「……すみません」 「謝んなくていいって。俺、怖い? 妹の小さいころみたいで懐かしいなって思っただけ」  その妹のことを思い出していたのか、彼の表情は柔らかくて優しかった。その横顔を見つめたまま、そっと答える。 「怖く、ないです」  怖くなんて、あるはずがない。あのとき、どれだけ自分が安心したのか、救われたのか、きっと彼は知らないだろう。伝えられる気もしなかった。

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