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閑話「夜の食堂でごはんを食べる話」11

「味方を付けるのもひとつの手だよ。それで、味方っていうのは、大きければ大きいほど価値がある。利用したらいい」 「利用なんて、……あの、俺」 「行人」  半ば反射で飛び出した否定を、穏やかでいて強い声が遮る。名前を呼ばれたのは、このときがはじめてだった。 「甘えられるうちに、甘える方法を覚えたらいい。あと一年は、守られてあたりまえの、かわいい新入生でいられるんだ」  まるで、そのあいだは自分がいるからと、言ってくれているみたいだった。  この人みたいになりたい、と思った。なれるわけがないとも思ったけれど、この人みたいに、優しく、強く。  だから、こんなところで負けている場合じゃない。 「はい」  噛みしめるように、行人は頷いた。 「ありがとうございます」 「うん。それでいいよ」  恩着せがましさのかけらもない調子で笑っていた成瀬に、「ごめんね」と謝られてしまって、首を傾げる。 「あぁ、ちょっと引き留めすぎちゃったなと思って。どう、戻れそう?」 「いえ、そんな……、その、いろいろとありがとうございました。あの、本当に」  今ならしっかりと眠れるんじゃないか、という気までしているくらいだ。自然と小さな笑みが浮かぶ。成瀬もまたにこりと応じてくれた。

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