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パーフェクト・ワールド・レインⅤ-6

「祥くん!」  廊下を曲がって飛び込んできたのは、見慣れた年下の幼馴染みではあったけれど、いつもの分別は捨て切っていた。日頃、自分と幼馴染みであることを声高にすることを良しとしていない皓太が、こんな風に現れることは滅多とない。 「皓太?」 「ごめん、俺じゃどうにもならない。助けて欲しい」 「皓太、ちょっと落ち着いて……」 「榛名が!」  必死な声で腕を引かれて、膨れ上がったのは嫌な予感だ。行人。出てきた名前は、つい先ほどまで自分が会いに行こうと思っていた少年のもので。 「榛名が連れて行かれたみたいで」 「行人が? 誰に」 「風紀の二年。旧校舎の方に入っていったらしいって。お願い、祥くんも一緒に来て!」 「風紀の二年って、なんで行人を」  風紀に違反するようなことをあの行人がするだろうか。眉を眇めた成瀬に、焦れったそうに皓太が叫ぶ。 「そんなことどうだって良いから! とりあえず一緒に来て。祥くんだったら、なんとでも出来るでしょ」  なんとでもしてやりたいはしてやりたい。ただ。  ――あんまり、あいつと無駄にやり合うなよ。  その忠告が、一瞬、脳裏を過った。風紀。生徒会室に一度戻れば向原も篠原もいる。 「分かった」  そんなことを気にしている場合でもない。自分に言い聞かせて了承すると、皓太が微かにほっとした表情を見せた。

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