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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 8-1
[8]
アルファのことを、ずるいとずっと思っていた。怖いものだともずっと思っていた。
父も兄もアルファだったし、人間的に「悪い人」ではなかった。だから、アルファがすべて怖いと思っていたわけではない。自分がどれだけ努力してもたどり着けないところに簡単に行き着く能力を持つ彼らのことを、ずるいとは思っていたけれど。
でも、それだけの感情で済んでいたのは、彼らが身内だったからだ。身内だったから、自分のことをそういう目で見ないとわかっていて。だから「ずるい」だけで済んだ。ほかのアルファだったら、そうはいかない。
だから、行人にとって、自分をそういう目で見る可能性があるアルファは「怖い」存在だった。
そう思うことは正しいことだとも言われていたし、警戒心を持つことはオメガとして生きていく上であたりまえだとも言われていた。
だから、そうして、気をつけなさい、と。
あなたが行く学園は、お父さんとお兄ちゃんが卒業した素晴らしいところだけれど、アルファの巣窟なのだから、と。
「榛名って、おまえ?」
「え……?」
顔を上げて、目が合った相手に、行人は息を呑んだ。心臓がドクンと高鳴る。アルファだ、と一見してわかったからだ。
昼休みで騒がしかったはずの教室は、その人の登場でしんと静まり返っていた。有名なアルファの上級生なのだろうとその空気でわかった。身長からして、三年生だろうか。
中等部の一年生と三年生のふたつの年齢差は大きい。話術も、身長も、体格も、力も、なにもかも勝てる気がしなかった。
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