640 / 1072

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 8-6

「無理って」 「だって、榛名、言い返しそうな雰囲気だったし。ああいうのはやり返したら余計に面白がられるんだから、はいはいって流したほうが絶対かしこい」  皓太を見習えばいいよ、と成瀬に言われた台詞が頭に浮かんで、行人は反論を呑み込んだ。  わかっている。高藤が言うことは、基本的に正しい。出会ってから短い期間だけど、嫌なやつじゃないということはわかる。  だって、自分がどれほど壁をつくってきつい態度を取っても、高藤は怒らないし、無理に割り入ってこようともしない。  戸惑ってはいるようだけれど、それでも行人を尊重しようとしてくれる、たぶん、すごくいいやつなのだ。あの夜のことも、必要以上になにも聞かないでいてくれている。  気に食わないアルファだけど。 「あと、これは俺が言うようなことでもないとは思うけど。おまえのせいじゃないから」 「あ……」 「それは、絶対」  その言い方はどことなくあの人に似ていて、行人はぎゅっと無意識に手を握りしめた。  大丈夫になると決めたのだから、だから、俺は大丈夫だ。  そうして、決意を新たにして行人は今日まで来たつもりだ。でも、同時に、ここまで来れたひとつの理由は、同室者が高藤だったから、ということがあるのもわかっていた。  自分はあの夜、成瀬に救われたけれど、高藤の存在にもたしかにずっと救われていた。

ともだちにシェアしよう!