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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 8-6
「無理って」
「だって、榛名、言い返しそうな雰囲気だったし。ああいうのはやり返したら余計に面白がられるんだから、はいはいって流したほうが絶対かしこい」
皓太を見習えばいいよ、と成瀬に言われた台詞が頭に浮かんで、行人は反論を呑み込んだ。
わかっている。高藤が言うことは、基本的に正しい。出会ってから短い期間だけど、嫌なやつじゃないということはわかる。
だって、自分がどれほど壁をつくってきつい態度を取っても、高藤は怒らないし、無理に割り入ってこようともしない。
戸惑ってはいるようだけれど、それでも行人を尊重しようとしてくれる、たぶん、すごくいいやつなのだ。あの夜のことも、必要以上になにも聞かないでいてくれている。
気に食わないアルファだけど。
「あと、これは俺が言うようなことでもないとは思うけど。おまえのせいじゃないから」
「あ……」
「それは、絶対」
その言い方はどことなくあの人に似ていて、行人はぎゅっと無意識に手を握りしめた。
大丈夫になると決めたのだから、だから、俺は大丈夫だ。
そうして、決意を新たにして行人は今日まで来たつもりだ。でも、同時に、ここまで来れたひとつの理由は、同室者が高藤だったから、ということがあるのもわかっていた。
自分はあの夜、成瀬に救われたけれど、高藤の存在にもたしかにずっと救われていた。
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