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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 9-6
「ごめん、聞きたくない」
「高藤くん?」
「水城がどう思おうと、それは水城の勝手だけど」
心配そうな呼びかけを無視して、でも、と言い募る。
「俺にとって、あの人たちは大事なんだ」
それだけは、計算ではなく、本音だった。子どものころから知っていて、子どものころから自分を打算なしにかわいがってくれていた。それが事実だった。
「どうして?」
大きな瞳には、心底わからないというような表情が乗っていた。
「それって――、気に障る言い方だったらごめんね。あの人がオメガだから? 高藤くんより下の人間だから、憐れんで、守ってあげなきゃってそう思ってるの?」
立ち上がった拍子に、ガタンと机が揺れた。驚いたように荻原が止めようとするのを無視して、皓太ははっきりと水城に告げた。
「昔から知ってるからだよ」
今までみたいに、頼りすぎたら駄目だなとはたしかに思った。だから、榛名にも、水城の相手は自分がしようと思うと言った。
けれど、それは、水城が今言ったような理由からじゃない。向原と話していたときの様子を見て、ここにさらに自分がもたれかかるようなことをしたらよくないと思ったからだ。
アルファだとか、オメガだとか、そういうことじゃなくても、人間には限界がある。年上だからといって、なんでも器用にこなす人だからといって、ひとりですべてを囲い込めるわけじゃない。
そのあたりまえに、この年になるまで気がつけていなかった自分も、きっと、良くも悪くもあの人を追い込んでいた。
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