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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 9-7

「少なくとも、あの人は、こんなふうに誰かのことを悪くは言わない」  こんなふうに、――本人のいないところで印象を操作するようなことは。 「あの人は、そういう人だ」  だから、それだけは自信を持って言うことができた。 「榛名も、そうだ。自分をよく見せるために他人を落としたりなんて、絶対にしない。だから、俺は」  ここから先は自分が相手をするのだと宣言するようにして、断言する。 「あの人たちを信頼してる。でも、悪いけど、水城に対してはそう思えない」  ひどいと訴えて、泣いてみせるのか。あるいは、このあいだ成瀬に食ってかかったときのように、反論してみせるのか。そのどちらかだと思っていたのに、水城の反応はどちらでもなかった。  なにも言わないまま、まっすぐにこちらを見ている。この教室でどう振る舞うべきか計算しているのだろうか。いつも水城のそばにいる取り巻きも、なぜか庇いには出てこなかった。  沈黙に耐えかねたように、「あのさ」と荻原がいつもと同じ穏やかな調子で口を開いた。 「この流れで、こんなこと言うのもかっこわるいと思うんだけど。会長、まちがいなくアルファだよ?」 「え?」  そこでようやく水城が反応を見せた。いつもと同じ、純粋に不思議に思っているそぶりで大きな目を瞬かせる。

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