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パーフェクト・ワールド・レインⅤ-9
陵学園には、旧校舎と呼ばれる棟が存在している。通常授業で使用されることもない、つまり、普通に学園生活を送っているだけならば、まず立ち入ることのない場所だ。
その棟の所有権を有しているのが、伝統的に風紀委員会になっている。もともとが「風紀」と言う冠を有しているくせに、不良が多く在籍しているのだ。その名残が、縄張りとして残っているわけだ。
生徒会に所属している人間としては大きな口では言いたくないのだが、早い話が無法地帯に近い。
そんなところで、何をしているのかと言うことは、できればあまり考えたくはなかったのだけれど。
旧校舎の入口に鍵はかかっていなかった。ドアを開けて中に足を一歩踏み入れた瞬間、甘い匂いが鼻を突いた。
オメガの、フェロモン。
「皓太」
この匂いはきついはずだ。外で待っていた方が良いと言いさし掛けた声を遮って、皓太が言い切った。
「大丈夫」
「でも」
「と言うか、祥くんだって一緒でしょ。大丈夫、我慢できる」
心配しているのは事実だと分かる。ただ。諭そうかと思ったが、止めた。時間が惜しいと言うこともあったけれど、ここまで来れば同じだ。
「後悔するなよ」
だから、その一言だけにして、中に進む。声が微かに聞こえる。恐らく、二階だ。
何を見たとしても、もうアルファとベータではいられなくなる。そのことだけは疑いようがなかった。それを二人ともが望んでいなかったとしても。
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