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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 9-14

 助けに動こうとした自分の騎士を手ぶりで制して、水城は言い放った。 「やっぱり怖いね、アルファさまは」 「……そういうことじゃないだろ」  怒鳴るのは堪えた。けれど、手は離せなかった。アルファだとか、オメガだとか、そういうことじゃないはずなのに、話がまったく通じる気がしない。意図的にずらしているのだとしても、水城のそれは徹底されすぎていた。 「そういうことじゃない、かぁ。どういうことでもいいけど。でも、いいの? 僕は困らないけど、停学にでもなったらきみは困るでしょ。それに」  そこで言葉を切って、水城が机に手をついた。そうしてそのまま耳元に顔を寄せてくる。 「守れなくなっちゃうよ、きみの大事な榛名くん」  次があったら、困るんでしょ、と直接耳に注ぎ込まれた台詞に、皓太はぎりっと歯を噛みしめた。あからさまな脅しだった。  顔を離して、にこ、と水城がほほえんだ。 「離してくれないかな、皺になっちゃう」  その顔をじっと見つめ返してから、皓太は手を離した。そのまま、くるりと背を向ける。 「頭冷やしてくる」 「ちょ、高藤」 「六限目は出るから」  振り返りもしないままそう言って、ざわめく教室を後にする。足が向いたのは、生徒会室でも寮でもなく、屋上だった。そこにあの人がいると思っていたわけではないけれど。  屋上の扉を開けると、フェンスに肘をついていた先客が、ちらりと振り返った。その顔に、ほんの一瞬驚いたような色が乗った。 「すげぇ顔してんぞ、おまえ」  おもしろいものを見たと言わんばかりに目を細めて、吸いさしをもみ消す。この人、なんだかんだで俺の前では吸わないんだよなぁ、と半ばどうでもいいことを思いながら、皓太は眉を下げた。 「……向原さんにだけは言われたくなかったな」

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