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パーフェクト・ワールド・レインⅤ-13

 この学園のすべてを、と言うほどの夢を見ることはできないし、あのころの真っ当さも、自分はもう持ち得ていない。それでも、守らなければならないものは残っている。  睨み据えた先で、本尾が小さく笑った。 「そうだ。貸し、返せよ、成瀬。今、ここで」 「――貸し?」  そう言えば、そんなことを言われたような記憶がある。あの時も、場に居たのは行人だった。  「それとも、これも貸しにしておいてやろうか?」  ゆっくりと本尾が近づいてくるのを、成瀬は止まったまま待つ。 「おまえに貸しをつくる気はない」  抱き上げた身体は熱く、忙しない息遣いを必死に押し殺そうとしている気配がある。  ――早く連れ帰ってやらないと。  そうは思うが、安全な場所がどこにあるのだろうとも思う。寮しかない。茅野に話を通して、五階を閉鎖させるか。 「そもそもとして、これのどこが貸しになるんだ」 「言葉にされなきゃ分からねぇのか?」

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