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パーフェクト・ワールド・レインⅤ-14

 少し距離を開けて、本尾の足が止まる。それ以上、発情期のオメガに近づきたくはないのだろう。この眩むような空間で、理性的に判断できる冷静さが吉と出るか凶と出るかは定かではないが。 「ここで、そのお荷物を抱えたまま、俺の善意なしに無事に戻れると思ってるのか?」  その言葉を裏打ちするように、本尾の背後に風紀委員たちが並ぶ。その声が聞こえたのか、行人の手がきゅっとシャツを握った。  瞬間、強烈な香りに脳が揺れる。立ちくらみかけた身体が壁に当たる。  まずい、と悟らざるを得なかった。影響されている。自分の中の何かが。 「祥くん!」  その声に、はっとして顔を上げる。今にも入ってこようとしているのを視線で制して、上ずりそうな呼吸を呑み込んだ。 「おまえがここで事を荒げても、何の得もないだろう」  だから、どうせ、こちらの反応を見て面白がっているだけだ。今までもずっと、そうだった。感づかれるわけがない。  こちらをじっと見つめていた本尾が、薄く笑って顎を引いた。 「顔貸せよ、明日。それでチャラにしてやる」

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