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パーフェクト・ワールド・レインⅤ-15
――おまえが何を考えてるのかは知らねぇけど。
呆れた声で言うくせに、その瞳はどこか優しい。少なくとも、あの頃の向原はもっとストレートに甘やかさを滲ませることがあった。
けれど、あの夜は、そうではなかった。
――もし、本気でおまえがそのままで……アルファのままで卒業したいなら、妙な情けをかけるな。
見かけたのは、偶然だった。同学年の寮生が、中等部に入学したばかりの一年生を空き部屋に連れ込もうとしていた。そのうちの数人はアルファで、不安げな顔をしている新入生はオメガだった。彼を引き込もうとしていた同級生は、恐らくオメガだとは認知していなかっただろう。可愛いベータだと思っていたはずだ。けれど、成瀬には分かった。同じだったからだ。
止めないと言う選択肢は存在していなかった。その子が可愛がっている幼馴染みの同室者だったと言う義理もあった。あるいは、そもそもとして、あの程度に自分が負けるはずがないとも思っていた。
――自分の身体のことを自覚しろ。おまえが思うほど、本当にコントロールが出来てるものなのか、それは。
言い聞かせる調子で続いた言葉に、はっきりとした根拠を持って言い返すことは出来なかった。
抑制剤を呑んで、発情期を抑える。それが成瀬が本当に幼いころから続けていた日常だ。自身の息子が劣等種であったと知った両親が、判定が出た直後から専門医を梯子し、多量の薬を服用させた。それが功を奏したのか、今まで、自分の性を感づかれたことはなかった。この男以外には。
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