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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 10-5
「もしそうだとしたらさ、それって、ここを卒業したら終わりにするの?」
「それは……」
やはり、そこから先が出なかった。自分の指先を見つめたまま、じっと時が過ぎるのを待つことしかできない。
「俺に望みってあるの」
頼りない響きに、はっとして顔を上げる。声とは裏腹に、四谷は笑っていた。
「もしないなら、早めに言ってよ。好きなのに叶わないのも、諦められないのも苦しいからさ。いいよね、榛名はオメガで」
「いいよねって」
「だって、俺はどうやったって無理だし、祝福されないけど、榛名だったら祝福されるじゃんか。同じ、男なのに。本当、第二の性ってなんなんだろう」
気色ばみかけていたことを忘れて、行人は言葉を呑んだ。その顔が笑っているのに苦しそうだったからだ。行人を見ているのか、そのさらにうしろの壁を見ているのか、わからない調子で四谷は言い募る。
「ずるいよ、オメガっていうだけで」
「……」
「俺も祝福されたかった」
なにも言えなかった。ははっと乾いた声で笑ったのを最後に、四谷の視線が下を向いた。目元を隠すように前髪を引っ張りながら、ごめん、と謝罪を口にする。
「榛名はそれでつらいのに、これも八つ当たりだ」
八つ当たりなんていう言葉でおさめていいのかもわからなかった。だって、本当はきっともっと思っていることがあるはずだ。かける言葉に悩んでいるうちに、自嘲するように四谷がぽつりと呟いた。
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