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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 10-9

「なんでもできるかもしれないけど、なんでもひとりでさせないであげてよ」  行人の罪悪感を知ってか知らずか、四谷の口調はあっさりとしていた。 「かわいそうじゃん」  ――かわいそう、か。  四谷と別れて自室に戻ってからも、最後に言われた台詞が妙に頭に残っていた。同室者は当然のごとく帰ってきていた形跡はない。  溜息を吐いて、窓辺に寄った瞬間、「あ」と小さな声が漏れる。だいぶ遠くではあるけれど、寮に向かって歩いてくる成瀬の姿が見えたのだ。今から下に降りれば、玄関を出たあたりで出迎えることができるかもしれない。 「……最近、喋ってないし」  言い訳のようにひとりごちて、帰ってきたばかりの部屋を飛び出す。高藤に会う前に、違う誰かと喋りたかったのかもしれない。  階段を駆け下りて、寮の玄関を開ける。ちょうど石段を上ってきたところだった成瀬が、行人の勢いにふっと小さく笑った。 「どっか行くの?」  変わらない優しい調子に、自分の猪突猛進な行動が恥ずかしくなってきて、行人は口ごもった。どこかに行こうとしていたわけではないのだが、いざ顔を見ると、なにを話せばいいのかわからなくなってしまった。  ――そもそも、四谷のことを話せるわけなんて、ないんだし。  相談するということは、四谷の気持ちを勝手に話すということになってしまう。 「え……っと」 「皓太、生徒会室には来てなかったよ」 「え」 「あ、いや、さぼりってわけじゃないんだけど。……まぁ、さぼりだけど、でも、たぶん主導したの向原だし」

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