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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 10-14
「え……っと」
喧嘩ではないと思うのだけれど。脳裏に浮かんだ四谷の無理をした笑顔に、行人は再び言葉につまってしまった。それでもどうにか続きを絞り出す。
「なんか……、喧嘩というか、自分がすごい卑怯なことしてる気がして」
それは、こういうふうに相談することも含めて、かもしれないけれど。いざ言葉にすると、本当にそうだなという気しかしなかった。
今の現状の、すべてがそうだ。四谷が高藤のことを好きなことは知っていた。四谷以外にも、高藤のことを好きなやつはいたとは思う。知っていたはずなのに、あの提案を受けたとき、自分はそういったことはなにひとつ考えつかなかった。
自分のことだけで――あるいは、最低限、高藤に迷惑はかけないかと気を使っただけで、それ以外のことなんてなにも思い至っていなかった。
友達がいなかったという事実が指し示すとおりで、自分の視野は狭くて、大事にしてもらっても大事にし返すことができていない。
――それも、本当に、今に限った話じゃないんだろうけど。
その証拠に、四谷にはたびたび「もう少し高藤のこと考えてあげたら」と言われていたのだ。四谷の目には、自分が高藤を大事にしているように映っていなかったのだろう。
そのことを行人は否定できない。
「それで、だから、罪悪感なんですけど。ちょっといろいろあって。……あ、嫌なこと言われたとか、喧嘩したとかじゃ本当にないんです。ただ、自分が駄目だなって思って」
「うん」
「それで、……それで、なんか合わせる顔ないなって」
「合わせる顔って、皓太に?」
訝しさの混ざった声音に、「あ」と固まる。自分の数少ない「友達」が誰かということを、成瀬はきっと知っている。その友達に対して「卑怯なことをした気がした」結果、「高藤に合わせる顔がない」とくれば、なにがあったのかは、彼の中ではもう導き出されているのではないだろうか。
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