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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 10-15
この人たちが用意してくれた隠れ蓑を脱いでしまったことも、もしかしたら。怒られてもしかたがないと覚悟していたのに、成瀬の表情は変わらなかった。
「そっか。まぁ、行人の気持ちもわからなくはないけど」
「はい。……あの」
「でも、俺としてはちょっとほっとしたかな」
「ほっとですか?」
予想外の言葉を、行人は繰り返した。
「相談の主旨から外れそうで、ちょっと申し訳ないんだけど。そもそも、行人、あのとき、ちゃんと自分で判断する余裕なんてなかっただろ」
それはそのとおりだった。改めてこんなふうに成瀬と話すこと自体、はじめてだったかもしれない。
「だから、今、こうやって悩むのもあたりまえというか、健全というか。前向きだって言ったほうがいいのかな」
「前向き……」
「うん。だって、考える余裕ができたってことなんだし。だったら、ちゃんと考えて悩んだらいいよ。俺でいいなら相談にも乗るし。卒業するまであと二年もあるんだから、考える時間はまだまだあるよ」
悩んであたりまえ。まだまだ時間はある。なんだか、ものすごくあっさりと背中を押されてしまった。だから相談する相手は自分ではない、と言われているように思ってしまったのは、穿ちすぎだろうか。
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