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パーフェクト・ワールド・レインⅥ-1

[6] 「なんだ、この騒ぎ……」  中に籠っていてなお響くざわめきに、篠原が生徒会室の窓を開けようと手を伸ばす。一瞥して、向原は溜息交じりに吐き出した。 「開けない方が良いぞ」 「え? なんで?」 「匂いにやられる」  その単語に篠原が手を止めて振り返る。 「匂いって」  はっきりと言わなくとも、伝わったはずだ。案の定、篠原が嫌そうに眉をしかめた。 「なんで分かるんだよ、おまえは」 「ついでに言っておくと、おまえのとこの新入生じゃねぇから安心しろ」  この学園のオメガは水城春弥一人ではない。そうではないかと疑っている人間は増えているだろうが、事実に気が付いている人間はまだ少ないはずだ。まだ。 「水城じゃねぇって、……じゃあ、誰だよ。あの噂のどれかが本物だったってことか?」 「あいつがオメガだ、こいつがオメガだって言うアレか」 「相変わらず興味のねぇことは一切覚えてねぇな、おまえは。でもそれだよ。有名なところだと、榛名か。あとも、まぁ、何人かいたけど。柏木も言われてたなぁ、そう言えば」  篠原が挙げた名前は、どれも線の細い、所謂オメガらしい特徴を兼ね備えた生徒たちのものだ。そのうちの何人かは実際に「そう」だろうと向原は思っている。少なくとも、榛名は「そう」だ。

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