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パーフェクト・ワールド・レインⅥ-2
「そう思うと櫻寮ばっかりだな」
「榛名だ」
「は?」
「連れ出したのは、成瀬だ」
校内が蜂の巣を突いたような騒ぎになっているだろうことは簡単に予測が付いた。あの生徒会長がオメガを――おまけに、今までベータだと思われていた人間を、だ――連れていて、目立たないはずがない。
見るともなしに書類を繰りながら口にした向原に、篠原がぎこちなく近づいてきた。
「おまえ、まさか、全部知ってたとか言わない……よな」
「誰も聞かなかっただろうが」
適当に書類を処理しながら、淡々と告げる。生徒会室に顔を出すこともなくなるだろうから、最後の義理だ。机に積まれている分くらいは処理しておいてやろうかと思ったのは。
「俺が聞かれもしないことを言うと思うか」
「何を考えてるのかと聞いた記憶が、俺にはあるんだが」
「だから、何もしてないと言っただろう、俺も」
感知していないとは一言も言っていない。屁理屈のようなことを平然と言ってのけた向原に、篠原は恨みがましい目つきのまま、机に手を置いた。図るように覗き込んでくる瞳に浮かんでいたのは懸念だったが、折れてやろうとは思えなかった。
「本尾に釘は刺したって言わなかったか」
「刺した。成瀬には手を出すなってな」
そこでやっと向原は手元から視線を上げて、笑った。
「そう言えば、あいつがどう動くかくらい、誰でも想像できんだろ」
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