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パーフェクト・ワールド・レインⅥ-3
「向原!」
「成瀬が直接乗り込んでいくように仕向けて来るに決まってる。分かりやすいよなぁ、あいつ」
色を成した篠原を宥めるでもなく、続ける。
「成瀬が可愛がってる人間は案外、限られてんだよ。おまえだって知ってるだろ? 博愛主義者みたいな面して、えり好みが激しいからな」
その代わり、自分の手の内に囲った人間は、どんな窮地に立とうと手放さない。馬鹿だ。
「一年だったら、まぁ、榛名か高藤。その二択しかない」
中等部の頃から可愛がっていた幼馴染みとその同室者。あまり手を出しすぎるな、と向原は何度も言った。
「おまけに、今のこの状況だ」
何度も、言った。今のこの学園をどう思うのか、とも。おまえはどうしたいのか、とも。
「どっちに手ぇ出した方が楽しいか、なんて明白ってだけの話で。俺が好き好んで首を突っ込んだわけでも、誘導したわけでもねぇよ」
「潰せるくせに潰さなかった時点で一緒じゃねぇのかよ」
「勘違いするなよ、篠原」
批難を跳ね除けて、処理済みの箱に最後の一枚を投げ入れる。
「あいつにも、俺は何度も言った。おまえはどうしたいんだって、な」
小さく笑う。あの日、まだ投げられていなかった賽が投げられた。それだけだ。だとしたら、もう転がるだけだ。
「答えなかったのも、選ばなかったのも、――手を伸ばさなかったのも全部、あいつだ」
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