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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 0-4

 高藤が、成瀬と似ていると評されていることを、行人は知っている。特に生徒会長を務めていたころは、よく教師からそう言われていた。けれど、そのたびに、笑って受け流す顔の裏側で嫌そうにしていたことも知っている。  あの人に似てると褒められて嫌がるなんて贅沢すぎるだろ、と思った瞬間がないとは言わない。でも、わかっていた。  その相手がどれだけ優秀であれ、身近な人間と比べられるのも、似ていると評されるのも、気分の良いものではない。だって、自分はほかの誰でもない自分であるはずなのだから。  それなのに、――なんで今の高藤は、わざわざあの人の真似をするような道を選ぼうとしているのだろう。  少し前、半ば嫌味で「そっくり」と言ってやったときは、随分と心外そうな顔をしていたくせに。 [パーフェクト・ワールド・エンドⅢ] 「夏休み期間中も、陵学園の学生だという自覚を持って、節度を守って過ごすように。それでは、解散」  寮長である茅野の話が終わると、食堂に集まっていた寮生たちのあいだからはぱらぱらと話し声が上がり始めた。  最近はどこか鬱屈とした雰囲気が流れることがあった寮内も、ひさしぶりの帰省を前に皆明るい顔をしている。  ――ちょっと離れるのは、いい機会なのかもしれないよな。  気がかりがあるのは事実だけれど、この学園にずっといても不安が増えるばかりだったかもしれないし。  それに、とも隣に座っている高藤を意識しながら、行人は考えてもいた。高藤が言っていたこと、成瀬が言っていたこと、そしてなによりも自分自身が思うこと。  そういったことを改めて考えてみるには、いい時間なのかもしれない。

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