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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 0-5

「皓太」  自分にかかったものではなかったのだが、思わず一緒に振り返ってしまった。目の合った行人にもにこりとほほえんでから、成瀬が高藤に向き直る。 「一緒に帰るだろ。ちょっと待ってて」 「あ、……うん」  先に帰るなという釘を刺しに来ただけだったらしく、すぐに呼ばれて戻って行ってしまった。その背中を見送って、ぽそりと行人は問いかけた。 「一緒に帰るんだ?」 「そりゃ、……まぁ、ほぼ同じとこだし。べつべつに帰るほうが変じゃない?」  そんなに近いんだ、と呟くと、徒歩五分という答えが返ってきた。想像していた以上に近い。 「徒歩五分」 「……というか、まぁ、ほぼ真向かい」 「真向かい」  五分って、もしかしなくても玄関から玄関までの距離か。あるいは、部屋から部屋までの距離か。どちらにしろ、めちゃくちゃ近い。  いいな、とは口に出さないまま、行人は呼ばれて立ち去っていった成瀬のほうに視線を送った。  高藤とは違い、成瀬はまったく変わらない。はじめて会ったときから、不思議なくらい、ずっと同じまま。穏やかで、完璧で優しい。そして強い。  それを行人はずっといいことなのだと思っていた。態度にぶれがない人は一緒にいてほっとするし、常に穏やかで優しい空気を提供してくれている人の存在は、すごく大きい。それだけで場は安定する。

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