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パーフェクト・ワールド・レインⅥ-6

 向原を見遣って茅野が肩を竦めた。 「なんでおまえと言い、成瀬と言い、……高藤も、か。とにかくおまえたちが平気な顔をしていられるのが信じられん」  あのくらいのオメガのフェロモンで左右をされるのなら、どちらが支配層か分かったものではない。心底そう思うが、その思考が少数派だろうことは理解してもいる。 「とは言え、問題を起こすわけにもいかんからな」 「おまえからすれば死活問題だろうな」 「向原」 「なんだ」 「中を頼んでも良いか」  数瞬の沈黙を経て、請け負う。元々そのつもりではあったから否はない。 「五階に顔は出してくる」  それが、茅野が望む展開になるかは知らない。この男もなんのかんのと言って、一度でも手の内に招き入れた人間には甘い。なぜ、そんなにも他人を信用しようとするのかは全く分からないけれど。 「なんで黙ってたの」  いつもに増して人気のない最上階に足を踏み入れた途端、後輩の声が耳に飛び込んできた。成瀬に影響されたのか、生来の性質なのか。感情を表に出すことはみっともないと思っている節の強い子どもにしては、険の強い声。オメガのフェロモンにあてられたか。 「成瀬さんはどうせ知ってたんだろ」

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