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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 0-12

「なんだ、榛名。こんなところにいたのか」  飄々とした、いつもどおりの茅野の登場に安心したはずなのに、ぱっと言葉が出てこない。代わりに応じたのは、自分に向けられていたものとは、また少し違う意味で呆れた声音だった。 「なんで、おまえが、こんなところぶらついてんだよ。寮のほうはどうした」 「それはこっちの台詞だ。おまえこそ、ただでさえ威圧的なんだ。うちのかわいい一年生をいじめてくれるなよ」 「過保護だな。なにもしてねぇよ」  たしかに、なにもされてはいない。こくりと頷くと、茅野が小さく溜息を吐いた。 「それはわかるが、おまえが話しかけるだけで怖がる生徒はいるんだ。そのあたりを自覚して、むやみに声をかけるんじゃない。それか、どうしてもかけたいなら、笑顔を常備しろ」 「本当に勝手だな、おまえは」  昔からだけどな、と吐き捨てて、本尾が笑った。 「おまえといい、成瀬といい、てめぇの身内のことしか考えてねぇ。立派なトップもいたもんだ」 「おまえはちゃんと全体を考えているとでも?」 「少なくとも、おまえらよりはな」  馬鹿馬鹿しいと言いたげな調子で、そう切り返したがの最後だった。言っていたとおりで、なにかする気も、必要以上にかかわるつもりもなかったのだろう。そうわかる態度で、あっさりと立ち去っていく。

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