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パーフェクト・ワールド・レインⅥ-8
だから、言っただろうが、と今更であるのに感じる。聞かないから。諦めたはずなのに、だから、と。
――おまえはそれを絶対的に抑え込めるのか。
向原がそう言ったのは一度や二度ではない。
「大丈夫」
腹の立つくらい、いつも通りを取り繕った声だった。
「もう、治まる」
暗がりの中でも分かるほどには、表情は取り繕えていなかったが。あの部屋に残らなかったことだけは真面な判断だとは思ったが、それだけだ。
「全部、あの一年の所為だってことにして? そこでやり過ごして。それで、また、明日から元通りって?」
一歩、踏み込んで告げる。隠しきれない失笑に、成瀬も吐息だけで笑った。
「おまえはそれで、隠し通せると思ってるのか」
「正しいよ」
糾弾から逃れるようにその顔が下を向く。気に入らないとの思いが強まった理由の一端がこれだと向原は自分で理解している。まっすぐに自分を見つめていたはずの瞳は、いつしかそうでなくなった。
「おまえはいつだって、正しい」
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