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パーフェクト・ワールド・レインⅥ-10

 瞠目したガラス玉のようなそこに、歪な笑みを浮かべたアルファが映り込んでいた。  馬鹿らしくなるほど完璧に取り繕われていた仮面が外れた表情を見たのも久しぶりであれば、眼があったのも久しぶりだった。 「あんまり俺を舐めるなよ、成瀬」  そうでなくなる前に。それを久しぶりだと感じないうちに。  何かをすることは出来たのかもしれない、もしかしたら。けれど、それももう意味のないことだ。   「なぁ、成瀬?」  雄弁に嘘を語ってみせる唇は閉ざされたままだった。それが最後の誠意だとでも言うつもりなのだろうか。どうしようもないな、と呆れた瞬間。いつだったか篠原が言っていた言葉を思い出した。  ――おまえはさ、そうやって、成瀬を大事にしてるよな。  ――昔のおまえからだったら、考えられないくらい。  それは、きっと、そうしてみたかったからなだけだ。大事にして、優しくして、そうすれば何か変わるのだろうか、と。ぽっかりと浮いたままの自分の中に、何かが満ちて来ることがあるのか、と。  そんなことを、思っていた。  そして、そんなことは夢物語だったと知った。  俺も何も変わらない。成瀬も何も変わらない。どこまで行っても平行線。ただそれだけだった。  すっかり取り繕われた人形のような顔を見下ろして、笑う。 「安心しろよ。俺はおまえを好きだから、おまえをあいつらに売ったりしねぇよ。俺が、落とす。俺が潰す、全部残らず」

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