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パーフェクト・ワールド・レインxx-1
[xx]
おそらく、予兆はいくらでもあった。
まず一つ目は、この学園に入る以前から、毎日服用していた薬が消え失せたこと。そして、予想外に薬が手元に届くまでに時間がかかったこと。
もう一つは、今までも大丈夫だったのだから、と馬鹿なことを思ってしまったからだ。
この学園で、――認めたくはないけれど、守られていた。そのことに、どこかで胡坐をかいていた。そんなこと、許されるわけがなかったのに。
「――行人。行人」
熱い。苦しい。もう、すべてを吐き出してしまいたい。本能にすべてを委ねてしまいたい。そんなとぐろを巻く熱のただ中で、意識を引き上げる一本の糸のような声が落ちてきた。
自分を、下の名前で呼ぶ人は、あの人しかいない。
「成瀬さ……」
ぼやけた視界の焦点がゆっくりと合い始める。その中心にあった顏を認識した瞬間。鈍っていた思考が少し動いた。
――そうだ、俺……。
「すみませ……俺、」
はっきりと覚えているのは、保健室に向かっていた廊下で倒れかけたところまでだった。アルファ。あの匂いを間近で感じた途端、オメガの本能に呑まれそうになって。そして。
……あれ、じゃあ、なんで。
回転し出した頭が新たな疑問を導き出す。じゃあ、なんで。この人が傍に居ても、俺は大丈夫なんだろう。
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