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パーフェクト・ワールド・レインxx-3

「飲んで。きっと、少しは落ち着くから。大丈夫だから」  なんで、そんな風に優しくしてくれるのだろう、とずっと思っていた。 「大丈夫」  なんで、自分なんかをずっと気にかけてくれるのだろうと、不思議だった。 「行人が一人になりたかったら、絶対にここには誰も入れない」  聞き慣れた優しい声が紡ぐそれは、三年前にも聞いた台詞だった。三年前。あのとき、この人に救われて、そしてこの学園で生きながらえた。 「もし、誰かに入ってきてほしかったら、呼んでくるよ」  優しい風に響く、残酷な選択だった。誰か。脳裏に浮かんだ顔に身体のどこかがきゅっと縮こまるような疼きが走る。  これは、きっと、オメガの本能だ。アルファに貫かれたい。アルファのものになりたいと誘う、本能。 「……成瀬、さん」  受け取った薬を無理やり水で流し込んで、そのまま彼の袖を引いた。あとどのくらいで効くのか自分には分からない。分からない。でも。 「行人が」  ぼやける視界でも彼が苦笑したのが分かった。 「俺と居ても怖くないとか、安心するとか。そう言ってくれてたのは」  まるで聞き分けのない子どもを諭すような声だった。彼の言う誰かに「彼」は含まれていないと改めて言うように。

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