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パーフェクト・ワールド・レインxx-5
袖をつかんでいた指先から力が抜け落ちていく。つまり、そう言うことだ。何も言わせてもらえない。言ったところで変わりようがない。それを分かっていて、それでもと。言い募ることは出来なかった。
この人を困らせたくない。追い詰めたくない。そう願う心が、「恋」ではないと。なぜ断罪するのが自分ではなく、この人なんだろう。
ずるいと思うのに、心底思うのに、それでも、何も言えなかった。好きだったから。大切だったから。
オメガであることを知ってもなお、自分を受け入れて、居場所を提供し続けてくれた人だから。認めてくれた初めての人だったから。
けれど、それは、彼も自分と同じだったからだ。
「行人は皓太にちゃんと大事にされてるよ」
「知らない」
最後の我儘のような頑なな応えに、声が笑う。
「ずっと行人の傍に居たのが誰だったかは知ってるだろ?」
ずっと。ずっと。たまたま陵に入学してすぐに同室になって。面倒見が良かったことも関係するのだろうけれど、ずっと気にかけて貰ってはいたと思う。認めたくはないけれど、それが事実だ。
行人が嫌だと思うラインを本能で察知しているかのように、踏み込み過ぎない態度で。
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