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パーフェクト・ワールド・ゼロⅣ⑤
[パーフェクトワールド・ゼロⅣ]
アルファではない自分に価値はないということと。そして、アルファでない人間にとって世界はとんでもなく不平等だということ。そのふたつが、幼少期から刷り込まれた絶対の価値観で唯一無二の真実だった。
「ところで、あなたはいつまでアルファでいるつもりなのかしら」
何度も言ってきたことでしょう、と言わんばかりの調子で、アルファであることが唯一無二の絶対だと自分に刷り込み続けてきた母が、そう問いかけてくる。
自室にあるお気に入りの赤いソファーにゆったりと腰かけ、女優然とした態度で足を組む姿を前に、どういうことですか、とできる限り淡々と成瀬は問い返した。
プライベートの空間だろうとなんだろうと、いつだって自分が物事の中心にいるにふさわしい格好をしていないと気が済まない人なのだ。
この持って回った言い回しにしても、そう。律儀に神経を逆撫でられていても、こちらの胃がやられるだけだいうことは経験則で承知している。
「いつまでいるつもりもなにも、そんな話は、今はじめて聞きましたが」
「あなた、私が学園の惨状を把握していないとでも思っているの? 先生からも恥ずかしいご連絡をいただいてしまったでしょう。いったいどうして薬の適正管理なんて基礎的なことができなくなってしまったのかしら」
恥ずかしいったらないわ、と眉を顰めた直後に、だからね、と言い含めるように彼女は声音を和らげてみせた。
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