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パーフェクト・ワールド・ゼロⅣ⑥
「みっともない恥をさらすくらいなら、潔く認めてしまいなさいと、そう言っているのよ」
「……」
「そのほうがあなたのためにもなるのではないかしら」
親心というやつね、とほほえんで、優雅な仕草でワイングラスを手にとる。グラスの中で濃い血のような色が揺れていた。
「それを」
芝居がかった一連の動作を冷めた目で見つめてから、言葉を振り絞る。自分の口から飛び出した声だけは冷静を保っていたつもりだが、説明のしがたい感情が渦巻いていた。
振り回され続けていることへの怒りなのか、許せなさなのか、あるいはただ単に虚しいのか、
「それを、あなたが言うんですか」
「あら」
心底不思議そうに、母は首を傾げた。
「あなたがどう思い違いしたのかはわからないけれど、あなたが生まれてからずっと、私は母親として最善の選択肢を与えていただけよ」
「……決定権のひとつもないころから、あなたのアクセサリーのようにモデルの仕事をやらされていましたが、それも?」
「そうよ、有益な経験で、良い財産になったでしょう? 度胸もつくし、人に注目されることにも慣れる。そういった立ち居振る舞いも身についたんじゃなくて?」
「オメガだとわかってすぐに、やめさせた」
「あら、続けたかったの? それは初耳だったわ。でも、これも親心よ。芸能界は特殊な世界だもの。ふつうの学校生活を送らせてあげたかったのよ。そのどちらも経験した上でカムバックしたいのなら、すぐにでもさせてあげるわ」
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