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パーフェクト・ワールド・レインxx-8

*  本当に知らなかったのかと言えば、嘘になる。けれど、嘘のままで良いと思っていたことも本当だ。  そうであれば、変わらない日常を過ごせると思っていたからだ。少なくとも、この学園にいる間は。  ガチャリと開いた扉に、皓太は壁に預けていた背を離した。また甘い匂いが強くなる。 「祥くん」  見慣れたはずの顔に浮かんでいたのは、珍しい疲労の色で。 「大丈夫?」 「あぁ、行人? ちょっと一人になりたいって言ってたけど。多分、もう少ししたら落ち着くから」 「落ち着くって」 「薬が効いたら、落ち着く。大丈夫」  頭痛薬を飲めば、頭痛が治まるとでも言うように。淡々と告げられたそれに、意識するより前に眉間に皺が寄る。  自分たちも、オメガのフェロモンに影響されないように抑制剤を飲むことはある。今も、服用している。それでも、全く影響がないわけではない。多少、マシだと言うだけだ。辛くないわけではない。このドアの先にいる人物もそうであるはずなのに。

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