721 / 1072

パーフェクト・ワールド・ゼロⅣ⑧

「あら、いけなかったかしら」  同じ言葉を母は繰り返した。 「余計なことを言ったつもりはないのだけど。先生からお電話をいただいた直後だったから、あなたのことが心配になって。だから、もらってやってくれないかしら、と聞いたのよ」  そんなところだろうと思ってはいたが、実際にその口から聞くと、癪に障るものがある。黙り込むと、彼女が軽く肩をすくめた。 「御冗談を、で流されてしまって、少し残念に思っていたのだけど、あなたにとっては幸いだったのかしら。だとしたら感謝すべきね。『アルファでいたい』あなたの意に沿ってくれているのだから」 「向原の言ったとおりだと、俺も思いますよ。冗談も気まぐれもほどほどにしてください」  あと半年なのだ。そのあいだくらい、踏みにじられたくはない。切実さを隠して淡々と告げたところで、成瀬は背を向けた。  言いたいことはもう言っただろうと思ったし、それになにより、これ以上意味のない話を聞いていたくはなかった。  はじめて水城とふたりで話したとき、この人と喋るときと似た疲れを覚えたような気がしていたが、そんな比ではなく苛々させられる。こんなことでいちいち感情的になどなりたくないというのに。 「あら、もう話は終わり? 本当にあなたは私が呼ばない限り顔を出しもしないのだから。今回も呼ばなかったら、また帰ってこないつもりだったんでしょう」

ともだちにシェアしよう!