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パーフェクト・ワールド・ゼロⅣ⑧
「あら、いけなかったかしら」
同じ言葉を母は繰り返した。
「余計なことを言ったつもりはないのだけど。先生からお電話をいただいた直後だったから、あなたのことが心配になって。だから、もらってやってくれないかしら、と聞いたのよ」
そんなところだろうと思ってはいたが、実際にその口から聞くと、癪に障るものがある。黙り込むと、彼女が軽く肩をすくめた。
「御冗談を、で流されてしまって、少し残念に思っていたのだけど、あなたにとっては幸いだったのかしら。だとしたら感謝すべきね。『アルファでいたい』あなたの意に沿ってくれているのだから」
「向原の言ったとおりだと、俺も思いますよ。冗談も気まぐれもほどほどにしてください」
あと半年なのだ。そのあいだくらい、踏みにじられたくはない。切実さを隠して淡々と告げたところで、成瀬は背を向けた。
言いたいことはもう言っただろうと思ったし、それになにより、これ以上意味のない話を聞いていたくはなかった。
はじめて水城とふたりで話したとき、この人と喋るときと似た疲れを覚えたような気がしていたが、そんな比ではなく苛々させられる。こんなことでいちいち感情的になどなりたくないというのに。
「あら、もう話は終わり? 本当にあなたは私が呼ばない限り顔を出しもしないのだから。今回も呼ばなかったら、また帰ってこないつもりだったんでしょう」
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