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パーフェクト・ワールド・ゼロⅣ⑫

「一成さん」 「おまえぜんぜん帰ってきてなかっただろ。絢美なら何回か見かけたんだけどな」  早々に飛び出した妹の名前に、愛想のいい笑みをひっこめる。喋ったこと自体ひさしぶりだが、中身はあいかわらずのままらしい。 「人の妹に手を出さないでくださいよ。あなたと違って、真面目にできてるんですから」 てるんですから」 「出さねぇって。出したらおまえ怒るだろ? それに、おまえと絢美なら、おまえの顔のほうが好み」  呆れた言い草をものともしない軽口に、閉口する。 「男ですよ、俺」 「いまさらだろ」 「アルファですけど」 「このあたりのオメガはもう食い飽きたんだ」 「なかなか最低ですね」 「いまさら」  同じ台詞を繰り返して、相手が笑う。 「人生、楽しいほうがいいだろ? 興味がちょっとでもあるなら、手を出したほうがいい。それが後悔せずに楽しむコツってやつ」  本当にあいかわらずだな。そう呆れていただけだった脳内に、ふとひとつのアイデアが浮かんだ。  金持ちでアルファという生まれ持った特権を振り飾すしか能のない顔をじっと見つめて、ほほえむ。 「それは、そうかもしれないですね」  散々だと思ったのだ。いつ来るかもわからないヒートに振り回される生活は。  そんな非効率的なことを続けるくらいなら、適当なアルファを引っかけて、こちらに有利な契約を結んでしまったほうがずっといいのではないか。そうすれば、ほかのアルファを気にする必要はなくなるのだから。  限られた一定の期間、自分が耐えればすべてが済んでしまうということは、ひどく合理的で、魅力的だった。

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