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パーフェクト・ワールド・ゼロⅣ⑮
「あのころの皓太には、ちょっとよくない影響があるかなって、勝手に俺が線を引いてたけど。べつに今は止める気はないよ。皓太がちゃんと判断できるって知ってるから」
「……それって、祥くんはちゃんと正しく判断してるっていう前提の話だよね」
「まぁ、そうなるかな」
頭上高くで蝉が鳴いていた。この地で夏を過ごすのは、六年ぶりかもしれない。帰りたくなくて、いつも理由をつけて逃げていた。
幼馴染みの家を逃げ場にしていた時期が過ぎたあとにも、逃げ場はあったからだ。自分たちしかいないあの場所が、たしかに自分は好きだった。
けれど、いつか終わりがくることは、わかっていた。
それ以上は言わないでいると、迷った末という顔で、皓太が口を開いた。
「あの、違ったらごめんね。俺や榛名に言えないようなこと、しようとしてなかった?」
曖昧な言い方に、成瀬は笑った。なんでもない調子で。
「してないよ」
「うん。なら、いいんだけど」
納得していない顔のまま、皓太が軽く頷いた。そうしてから念を押すように繰り返す。
「しないでね」
「うん」
にこ、とほほえむと、皓太が小さく溜息を吐いた。
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