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閑話「プロローグ」②

「人間、誰がなにをしなくても、変わるときは変わると思うけど。環境だってここに入って、がらっと変わったわけだし、ある意味、あたりまえなんじゃない?」 「いや、……まぁ、それはそうかもしんねぇけど、なんつうか」  合点の行っていないのが伝わってきて、静かに繰り返す。 「本当に、俺がなにかしたわけじゃないよ。本尾にもそう言ったんだけどな」 「納得しなかっただろ」 「うん」  そのときのやりとりを思い出して、成瀬は小さく笑った。 「とりあえず、あいつが本尾に好かれてて、心配されてるってことはよくわかったんだけど」 「言うなよ、それ」 「誰に?」 「どっちにも。……いや、まぁ、向原には言ってもいいけど、本尾には。おまえも変に目の敵にされたくないだろ。あいつ、まともだし悪いやつではないんだけど、すげぇしつこいから」 「まぁ、それはいいけど」  本当にべつにどちらでもよかったので、苦笑ひとつで請け負う。言おうが言うまいが、その結果でなにが起ころうが、自分の今後に影響しなければ、問題はないのだ。ただ。 「仲良くしたいなら、すればいいのにな。本尾、向原のこと好きなのに」 「……おまえの思考回路、たまにすげぇ謎」 「そうかな」  よくわからなくて、成瀬は煙草をくわえなおした。秋の空に紫煙がゆらゆらと立ち上っていく。  好意があるかないかなんて、目を見ればすぐにわかるだろうに、と思いながら。

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