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閑話「プロローグ」④
「なぁ」
本当に、ふとというように篠原が問いかけてきた。
「おまえがとくになにをしたって意識がないってことはわかったんだけど、じゃあ、おまえは、あいつのことどう思ってんの?」
俺にとっての都合の良い隠れ蓑で、あいつにとっての、暇つぶしの娯楽だろ。
言えるわけのない真実を呑み込んで、笑う。
「なんで?」
「あいつが変わったのは、環境が変わったせいじゃなくて、おまえと出会ったからだって思うから」
人一人の世界変えるって結構とんでもないことだと思うんだけどな、と続いた台詞に、失笑する。堪えることができなかったのだ。その振動で、吸いさしからぱらぱらと灰が舞い落ちた。
「おまえなぁ」
「ごめん、悪かったって」
照れ隠しのように背を叩かれて、取ってつけた謝罪を口にする。
――でも、あいつは俺のこと「好き」でもなんでもないと思うけどな、本当に。
どうして篠原がそう思ったのかはわからないが、目を見ればわかることだ。
あの目に「変わり者のオメガ」に対する興味と執着はあっても、それ以外はない。色恋などというくだらないものは、なにひとつ。そういう意味で、成瀬は向原のことを信用していた。けれど、それだけだ。
だから、あっさりと言い放つことができた。
「そんなこと、あるわけないだろ」
誰かと出会ったくらいで変わる軟な世界なんて、この世のどこに存在しているのだろうと呆れながら。
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