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閑話「プロローグ」⑤

 それくらいで変わる世界ならば、きっと、もっと生きやすかった。どこまで行ってもアルファかオメガかしかない世界。  アルファでなければ生きている価値もないような世界。  この世界が、大嫌いだった。そこでしか生きていけないちっぽけな自分も含めて、なにもかもが。  だから、変えたくなったのかもしれない。  世界を変えることはできなくても、ちっぽけな自分が天下をとることができる程度の箱庭なら、変えることもできるのかもしれないと思ったから。 [閑話:プロローグ]  その執着は、恋だとか愛だとかそういったものではなく、丸二年かけて手懐けたことに対する達成感に、たぶん似ていた。 「それにしても、人間って変わるもんだよな」  やたらしみじみと呟かれて、しかたなく向原は視線を動かした。肌を刺す風が冷たさを増した冬のころの話だ。  なんで冬の時期も屋上に溜まりたがるのかとうるさいのは篠原だが、嫌なら来なければいいだけの話なので、言えた義理はないと思っている。  そもそもとして、溜まっているつもりはいっさいないのだ。ひとりで過ごすはずだったところに、顔を出す人間が増え始めたというだけで。 「いや、だって、おまえすっごい丸くなったじゃん。去年の秋だったかな。そのくらいのころに成瀬にも一回聞いたんだけど。なにしたんだよって」

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