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閑話「プロローグ」⑥

「で?」 「なにもしてないけどって、あの顔で一笑されて終わり」 「だろうな」    容易にできた想像に、向原は喉を鳴らした。一年前だと言うのなら、今の比でなく棘々しかったころのことだろう。表面だけはにこにことしていたが、誰も信じないという目を隠していなかった。 「笑いごとかよ。いや、まぁ、あのころに比べたら、あいつも丸くなったとは思うけど。俺、絶対仲良くできねぇって思ったもん。似非くさすぎて」 「まぁな」  そうかもな、と笑って、抑制剤を口に放り込む。窺うような視線に振り向けば、目が合った篠原が眉をひそめた。 「なんか、最近、飲み過ぎじゃね、おまえ」  去年それだけ飲んでなかっただろ、と言う。 アルファの抑制剤は、ヒートのオメガと遭遇したときに服用する回避薬としての使用が一般的だが、「強い」と称されるアルファが、周囲への影響を考慮して常用することもある。  その範疇の服用頻度だとわかっていたから、「あいつに言うなよ」とだけ釘を刺した。 「なんでだよ」 「自分のこと棚上げにして、うるさいから」 「はい、はい」  呆れたという顔で篠原が肩をすくめる。 「アルファの上位種さまは大変ですね。ふつうのアルファでよかった、俺。でも、うちにオメガなんていないんだし、そこまで徹底しなくてもいい気もするけど」

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