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閑話「プロローグ」⑩

「本当、よくわかんねぇ付き合いだよな、おまえらも。成瀬に言わせると、本尾はおまえのこと『好き』で、『心配してる』らしいけど」 「言わせとけよ」  その認識は改まらないだろうとわかっていたので、苦笑ひとつで向原は受け流した。べつに、なにをどう思われていようとも、構わないと言えば構わない。 「でも、なんつうか、おまえらみたいなの腐れ縁って言うんだろうな、たぶん」 「そうかもな」  なくても困らないが、あるとそれなりに便利なもの。利用できるうちは使ってやろうと決めている。それだけのもので、それだけでしかなかった。 「だから、なんだ。叩くなら、ほどほどにしとけよ」  再三の念押しに、ちらりと視線を向ける。 「繰り返しになるけど、割り切れって言ってんの。しょうがねぇだろ」 「割り切る、か」  べつに、このままが続くのなら、なにもする気はなかったのだが。  それとも、そんなに自分は、「あいつ」のためならなんでもすると思われているのだろうか。 「そ。大人になれって話」  大人、ね。言葉にはしないまま、向原は煙草をもみ消した。  現状に、そこまでの不満はなかった。きっかけは興味本位の賭けだったが、あの男の言動は見ていて飽きなかったし、大言壮語にしか思えなかったことを叶えていく手伝いをしてやることも、暇つぶしにはちょうどよかった。  純然たる好意を信用しようとしない、心底面倒くさい男だが、それでも、だからこそ、本人も自覚していない部分が変わっていくところを見るのは、それなりに心地が良かった。伝わるものもあるのだと思えたから。  ――たしかに、丸くはなったのかもな。  自分にしても、成瀬にしても。多少は、きっと。  だから、べつにこのままで構わないと思っていたのだ。あのときまでは。

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