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閑話「プロローグ」⑪
*
達成感というものは、人を馬鹿にする。そういうものだと理解していたのに、自ら深みに嵌ることを選んだ時点で、負けに踏み込んでいたのかもしれない。
「アルファだぞ、俺も」
言うつもりのなかった台詞がこぼれたのは、らしくなく苛立っていたからだ。
けれど、らしくない、と感じることが増えたのは、なにも昨日今日に始まったことではない。日常の中で、徐々に徐々に降り積もっていたもの。
たとえば、懸念も忠告も、なにひとつ受け入れようとしないところ。
たとえば、自分なら大丈夫だという根拠のない過信を崩さないところ。
たとえば――。
自分の主張が絶対で、なにも受け入れようとしない。そのはずだったのに、いつのまにか少しずつ人を受け入れるようになって、甘い顔を、情を見せるようになった。だから、こんなふうになる。
そんな変化を自分は求めていなかった。
ベッドに身体を押さえ込んでいた手に力が入って、マットレスが鈍く軋む。ふたりしかいない寮の部屋に、時計の音だけが響いていた。
この状況を許していることも含めて、腹が立っていた。なにもなかったというのなら、それはただ運が良かっただけなのだということを、いいかげんに思い知ればいい。
「――おまえが」
まっすぐに目を見つめたまま、成瀬が口を開いた。
「俺になにかするわけないだろ」
最初にあったはずの驚きや戸惑いといったものがすべて消え去った、感情のない静かな声。
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