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パーフェクト・ワールド・レインxx-10
「だって、今までは」
「今までは、ちゃんと管理してたんじゃないかな、抑制剤で」
「抑制剤?」
首を傾げた皓太に、成瀬が曖昧に微笑んだ。ふと甘い匂いがしたような気がして、一拍置いて得心した。移り香だ。
「皓太は、オメガがどうやって生活してるか知っている?」
「どうやってって、日常を、ってこと?」
それは、と言おうとして、皓太は止めた。ベータに擬態して、平穏に生きようとするために、一番不要なのは、発情期だ。それを抑え込むための薬を服用し続けて、なんとか生きている。
「その薬がなくなった……盗られたってこと?」
語尾は疑念系に跳ね上がったが、そうだろうと言う確信はあった。
「もしかして、水城?」
それもまた、きっとそうなのだと分かった。それですべてに納得がいく。あの日、部屋の中で不信そうな顔で立ち尽くしていた榛名。水城に喰ってかかっていた榛名。
「なんで、あいつ、そんなこと」
「いろんな薬があって、それと同じだけ、体質も違うだろ? 皓太も……、皓太はあんまり薬飲んだことないか。昔から頑丈だもんな」
「祥くん」
何の返答にもなっていないそれに苛立ちが滲む。
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