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閑話「プロローグ」⑭
「向原」
二度目の呼びかけを無視して、外に出ようとしたところで、三度目がかかった。予想外のしつこさに、しかたなく振り返る。自分に始末を付けられるのがそれほど嫌なのか。あいかわらずプライドばかりが一人前だ。
「だから、なんだよ」
「変わるな」
はっきりと告げられたそれに返事をすることなく背を向ける。そのまま、外に出てもそれ以上の声はかからなかった。
なにもかもが中途半端で、腹の底に溜まっている苛立ちは減るどころか、助長されるばかりだった。
夜の遅い時間になっているにも関わらず、寮内はどこもかしこも騒めいている気配があった。廊下の窓を開け放っていてもなお香る甘い残り香。
目的の場所に向かう道中、寮生委員に引き留められかけたが、視線を向けると、慌てたように逸らされてしまった。
おどおどとした態度に辟易しつつも、その脇をすり抜け、目的の部屋のドアを叩く。乱雑であれ一応ノックというかたちを取ったのは、壊すことも面倒だったからだ。
本当に、面倒くさいし、腹が立つ。なにが、変わるな、だ。反応のない扉を苛立ったまま蹴りつける。必要以上に面倒なことをする気はなかったが、余計な時間を取られたくもなかったのだ。
「なぁ」
返事がないことを構わず、煽るように続ける。
「逃げんなよ、いまさら」
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