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閑話「プロローグ」⑱

 まぁ、でも、と踵をめり込ませながら、続ける。靴の下で、みしりと骨の軋む音がした。 「案外、きれいに折れたほうが治りも早いんじゃねぇ?」  内臓に損傷がいきそうな場所を避けてやってるだけ、こちらも加減しやっているというのに、なにが気に入らないのか。耳障りな声に辟易としながら、告げる。 「協力してやるよ」  後遺症を残さないように人体を痛めつけることは、そう難しいことではない。  これをあと二回繰り返すのかと思うと面倒だなとうんざりしたというだけで、それ以外の感慨はひとつも湧かなかった。  どうでもいい。心の底からどうでもいい。あれに興味さえ示さなければ、なにをしようが放っておいてやったのに。 「どいつもこいつも、アルファだオメガだって馬鹿みたいだな」  汚い声が響かなくなった部屋で、そう吐き捨てる。本心だった。  そんなものに振り回される人間は、どうしようもなく弱いと向原は思っている。なんでそんなもので、自分の感情を左右されなければいけないのか、まったく納得がいかない。  むしろアルファだとかオメガだとか、そういったことを理由にするならば、自分は面倒としか思えないオメガを選ぶ気はいっさいなかった。だから、これは、そういう本能じゃない。

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